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貞丈雑記
十六神仏
一九字と雲事、臨兵闘者、皆陣列在前と唱へながら、如此なる形お空中に書く也、是お九字お切ると雲也、一字に一つ宛印相あり、九字お切る時も、剣印とて、印お結て九字お切る也、是皆真言宗の習事也、真言宗の出家より伝お受けざれば用にたゝずと雲也、此九字(○○○)、本は道家の法也(○○○○○○○)、道家といふは、仙術とて、仙人の方お行ふ者なり、祈禱などおもする也、其道家の書に、抱朴子といふ書あり、其書に九字あり、臨兵闘者皆陣列在前行とあり、是真言宗に借り用ふる成べし、武家にて九字お用る事もある故記之、又雲、陰陽師は道家の方也、一十字と雲も、道家の法成べし、手の中に、指の先にて文字お書て、握りてゆけば、わざはひお除き、さいはひ有りと雲、天〈大名高位の人に向ふ時、此字お書く、〉竜〈海川舟橋お渡る時書之〉虎〈広野原深山に向ふ時書之〉王〈弓箭兵杖軍陣山賊夜行の時用之〉命〈心もとなき食物に向ふ時書之、又〓の字おも書、〉勝〈市町売買諸勝負の時書之〉是〈病人之家に入時用之〉鬼〈魔所へ行時用之〉水〈身不浄の気おはらふ時書之〉大〈万悦言喜の時書之〉右大秘事也とて、みだりに伝えずと雲也、是も真言宗の出家の習事也、出家より伝お受ざれば用立ずと雲也、たとへ出家より伝お受たり共、何のしるしもなく用に立ぬ事也、