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徒然草

赤舌日といふ事、陰陽道にはさたなき事なり、昔の人、是おいまず、此頃何もののいひ出ていみはじめけるにか、此日ある事、末とおらずといひて、其日いひたりし事、したりし事かなはず、えたりし物はうしなひ、企たりし事ならずといふ、おろかなり、吉日おえらびて、なしたるわざの、末とおらぬおかぞへて見んも、又ひとしかるべし、其ゆへは、無常変易のさかひありと見るものも存せず、始ある事も終なし、志はとげず、望はたゝず、人の心不定なり、物皆幻化也、何事かしばらくも住する、此理おしらざるなり、吉日に悪おなすに必凶なり、悪日に善おおこなふにかならず吉也と雲り、吉凶は人によりて日によらず、