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槐記
丙午〈○享保十一年〉正月廿八日参候、〈○中略〉昔し獅子吼院殿は、物ずきの達人にて、物ごとに面白きこと多し、〈○中略〉その後、庚申の夜、いつも無上方院の御方にて御遊あり、日外の獅子吼院の御物ずき面白さ、今宵に遊ばせかしと仰にて、公の御絵にて、それ塩よ青のりとあはてふためきて拵へ、出来しまヽに、さらば遊ばせとて、盃出して、この枝は今少し長くして、この松の蓋お、一かさ大にして、今一つも苦しかるまじ、身木は少しふときが相応なり、かれ枝も面白かるべしなど雲て、出来たり、さてこそ見ごとなる物よ、さらば酒一つつぎて飲かし、我よ人よと推いたヾきて、風味もよかるべしとありしに、塩も山椒も辛く鹹くて、一口もたべかねたりとて大笑したり、