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枕草子

えんゆういんの御はての年、みな人、御服ぬぎなどして、あはれなる事お、おほやけよりはじめて、院の人も、花の衣になどいひけむ世の御事など思ひ出るに、雨いたうふる日、藤三位のつぼねに、みのむしのやうなるわらはの、おほきなる木のしろきに、たて文おつけて、これ奉らんといひければ、いづこよりぞ、けふあす御物いみ(○○○○)なれば、御しとみもまいらぬぞとて、しもはたてたるしとみのかみよりとりいれて、さなんとはきかせたてまつらず、物いみなれば、え見ずとて、かみについさしておきたるお、つとめて、手あらひて、其巻数とこひて、ふしおがみてあけたれば、くるみいろといふしきしのあつごえたるお、あやしと見てあけもてゆけば、老ほうしのいみじげなる手にて、 これおだにかたみとおもふに都には葉がへやしつるしいしばの袖とかきたり、