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平家物語

法印もんだうの事同じき〈○治承三年〉十一月七日の夜の戌のこくばかり、大地おびたゞしううごいて、やゝ久し、おんやうの頭あべの泰親(〇〇〇〇〇)、いそぎだいりへはせ参り、今度のぢしん、せんもんのさす所、其つゝしみかろからず候、当道三経の中に、こんぎ経の説お見候に、年おえては年お出ず、日おえては日お出ず、もつての外に火急に候とて、涙おはら〳〵とながしければ、てんそうの人も色お失ひ、君もえいりよおおどろかさせおはします、わかき公卿殿上人は、けしからぬやすちかゞ泣やうかな、隻今何事の有べきかとて、一度にどつとぞわらひあはれける、され共、此やすちかは、晴明五代のびやうえいおうけて、天文はえんげんおきはめ(〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇)、ずいてうたな心おさすがごとし、一事もたがはざりければ、さすのみことぞ申ける、いかづちのおちかゝりたりしか共、雷火のために、かり衣の袖はやけながら、其身はつゝがもなかりけり、上代にも、まつ代にも、有がたかりしやすちか也、同じき十四日、入道相国〈○平清盛〉いかゞは思ひなられたりけん、すせんきの軍兵おたな引て、都へかへり入給ふよし聞えしかば、京中何と聞わけたる事はなけれども、上下さわぎあへり、