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怪異弁断
一天異
日食は、日輪上に有て、下月の為に遮られて光映お失ふ者也、歴代古今の日食不可枚挙、〈○中略〉今代は和漢ともに食算大成す、其暦梓に鑯めて遍く万民に施せり、此故に童蒙女子と雲とも、毎年日月の食ある故に、常として災異とせず、〈○中略〉左伝昭公二十一年秋七月〈の〉日食に言る、冬至夏至春分秋分に日食ありと雲とも、災とせざるよし見へたり、然れども其道理心得がたし、道理お以て雲ば、二至は日輪南北の極道、陽気進退の始なり、二分は日輪天の中道お行の時にて、日夜等分、陰陽温和の節なり、如此の時に当て、日輪蔽蝕する事あらば、他月の蝕よりは猶災禍とすべき理なるに、二至二分の時には却て災とせざるの義、其理不審なり、往古日蝕寡しと雲ものは、算法未だ不委して、動すれば定朔の算数お錯りし故なり、