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撈海一得

今長崎より、東都へ献ずる清暦おみれば、二京、十四省、朝鮮、蒙古、凡正朔お奉ずる国国の二十四節、日の出入の遅速お、其処々に割付けて、暦日どもには、紙かず三十張ばかりありて、官の大印お拈て、翻刻する者は、刑三族に及と記、総裁以下の官人の連署ありて、官より頒行物にて、賈人の制る物に非ず、唐山の賈人の日用の暦は、小冊子にして、東都へ献るとは別板なりと、長崎の人の話なり、官人と庶人とは、頒つに大小本の別暦ありて、于鱗王百穀など、田里に帰て潜居するときは、民間の小暦のみにて、大冊暦お見ざる故、二京官お勤る友人より、官暦お贈るとみへたり、