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笈雉随筆

伊呂波〈○中略〉狭布(けふ)の里は、今南部領なり、其府お離れし山隘の村民、文字おしらぬ故に、年々の暦日、農の為に、村長より暦お絵に図して作る事おしらしむ、月朔の十二支には、子は鼠、亥は猪お図し、八専、入梅、二至、三伏の、其たとへたるは、宛も謎の如し、其内、一二おいはん、八十八夜は、重箱に矢の立たるなり、種蒔は畚お画き、田刈吉は鎌なり、節句は鬼の泣図あり、絶倒〈の〉限り、たゞ且仏事祈禱には必ず般若心経お読誦す、是又盲暦に類して、一段おかしく、頤お解にいたる者なり、