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枕草子

故殿の御ぶくのころ、六月卅日の御はらへといふ事に出させ給ふべきお、しきの御ざうしは方あしとて、官のつかさのあいたん所にわたらせ給へり、其夜はさばかりあつく、わりなきやみにて、何事もせばふかはらぶきにてさまこと也、〈○中略〉時づかさ(○○○○)などは、たゞかたはらにて、かねの音(○○○○)もれいには似ずきこゆるおゆかしがりて、わかき人々二十余人ばかり、そなたにゆきてはしりより、たかきやにのぽりたるお、これより見あぐれば、うすにびのもからぎぬ、おなじ色のひとへがさね、紅の袴どもおきてのぼり立たるは、いと天人などこそえいふまじけれど、そらよりおりたるにやとぞ見ゆる、おなじわかさなれど、おしあげられたる人は、えまじらで、うらやましげに見あげたるもおかし、