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一宮巡詣記

夫より富士の山へ登らんと志し、吉田町にて用意などして、山路に趣き侍る、大日すゝ原お通り、御室の大山積の社へ参り、夫より中宮へまふで、かま岩の茶屋にとゞまる、本より草木もなき山の岩屋なれば、かたしく袖の夜半の嵐に、目もあはで堪がたかりし、明れば廿日、此にて日の出お拝みけるに、心もすみていとたうとし、安座巡行お勤、安(加筆)座とは儒者の正座の如く、安座して心中お神道に練るなり、巡行とは安座久しければ、却て心身お苦しむるゆへに、時々立て左めぐりに廻り、又安座するなり、されば土計(○○)とて板に小き穴おあけ、その上へに砂お盛り(○○○○)、その板の下に鉢お置て、漏るゝ砂おうくるなり、その砂、板の上より脱し尽くるお度とす、砂の多少は我好むところに在、三喜(橘)は能く安座お修し得たりとなり、鼻の先に木綿おのりにてちよとつけて、息のあらく成お慎みて練気なり、〉