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掌中時辰儀示蒙
俗に根付時計(○○○○)と称する物、援に掌中時辰儀(○○○○○)と名く、近歳舶来漸く多く、世専奇玩とす、其製年々奇巧お極め、種々の新製あれども、畢竟玩物にして、日々天行時刻に密合する物にはあらず、如何にとなれば、星官用る所の垂様球儀は、球の往来、昼夜或は六七万行、南北線おもて、日中に測るに、其日の寒暖乾湿によりて、或三四行、或は五七行の小差お免れず、況や此小物にして、発条及び毫鉄の寒暖に感じ易きものおや、〈近来、舶来の気候儀に毫鉄おもて寒暖お験するものあり、証すべし、〉但西洋の舶師、航海測量に舶中垂揺球儀お置こと能ざるによりて、三針の時辰儀〈俗に秒指おいふ〉お用ゆ、其製最も精妙にして、測量の用に充るに足る、然ども敢て天行一周の密合お要せず、〈其要する所、測量家の識る所なれば略す、〉況や自余の玩物おや、〈世俗其情お解せずして、往々猥に盤面の表お本邦に攺造するものあり、舎て論ぜず、〉