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有徳院殿御実紀附録
十五
元文のころ、長崎の工人太郎左衛門といへる者に、大なる自鳴鐘おつくらせらる、其製はなはだ巨大にして、一年に一度とゝのふる時は、終年たがふる事なしといへり、いとめづらかなるものと人みな称讚せり、ある日河合久円成盈に、女かの自鳴の価はしれりやと仰ありしかば、いまだしり侍らずと申けるに、かれは金一万両お費したり、何の詮もなく、邪魔なるものかとてわらはせ玉ひしとぞ、いかなる盛慮にや、久円にはうかゞひしられざりしとかたりき、