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灯前漫筆
近年時計世に流行して、諸侯方居間に、二三十、少くして十ばかりもありといふ、いかなる心にて、玩び給ふぞや、其心は知らず、おもふに隻何の心あるにはあらず、時の流行と雲ふに雷同して、多きおむさぼるの心ならむか、此器の用は、時お計る物なれば、一つにても足りぬべし、遅速の見合せのためぞとならば、二つまでは可なるべし、二三十乃至四五十に至ては、何の用なる事お知らず、工人は産業の折お得たりと思ひ、形おいろ〳〵にかへて作り出すお、是もめづらし、かれも面白しと、限りなく求めらるゝ故に、終に三四十にも及ぶなるべし、又時めく役人などは、諸侯の方おはじめ、手入とやらんに、何おがなと、賄賂お争ひ贈る時節なれば、其人の好む品又は時にはやる物といへば、我おとらじと贈るほどに、終に其数あまたになるにも有べし、