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源平盛衰記

盲卜事大炊御門堀川に、盲の占する入道あり、占雲言時日お違へず、人皆さすのみこと思へり、焼亡と哼ければ、此盲目何く候ぞと問、火本は樋口富小路とこそ聞と雲、盲しばし打案じて、戯呼一定此火は是様へ可来焼亡也、ゆヽしき大焼亡かな、在地の人々も、家々壊儲物共したヽめ置べきぞと雲、聞者皆おかしと思て、樋口は遥の下、富少路は東の端、さしもやは有べき、いかにと意得て、かくは雲ぞと問ければ、占は推条口占(○○○○)とて、火口といへば、燃広がらん、富少路といへば、鳶は天狗の乗物也、少路は歩道也、天狗は愛宕山に住ば、天狗のしはざにて、巽の樋口より、乾の愛宕お指て、筋違ざまに焼ぬと覚とて、妻子引具し、資財取運て逃にけり、人嗚呼がましく思けれ共、焼て後にぞ思合ける、