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大鏡
七道長
今の衛門のかみ〈○実成〉ぞ、とくよりこの君〈○右馬頭顕信〉は出家の相こそおはすれとの給ひて、中宮大夫殿〈○能信〉のうへに御せうそこきこえさせ給ひけれど、さるさうある人おばいかでかとて、後に此大夫殿おばとりたてまつり給へるなり、正月にうちよりいで給ひて、この衛門督馬頭の物よりさしいでたりつるこそ、むげに出家の相ちかくなりて見えつれ、いくつぞよとのたまひければ、頭中将〈○能信〉十九にこそなり給ふらめと申給ひければ、さてはことしぞし給はんとありけるに、かくときゝてこそ、さればよとのたまひけれ、相人ならねどよき人はものお見給ふなり、