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今昔物語
二十四
僧登照相倒朱雀門語第二十一今昔、登照と雲僧有けり、諸の形お見、音お聞き、翔お知て、命の長短お相し、身の貧富お教へ、官位の高下お令知む、如此相するに、敢て違ふ事無かりければ、京中の道俗男女、此登照が房に集る事無限り、而るに登照物へ行けるに、朱雀門の前お渡けり、其門の下に男女の老少の人、多く居て休けるお、登照見るに、此門の下に有る者共、皆隻今可死き相有り、此は何なる事ぞと思て、立留て吉く見るに、尚其相現也、登照此お思ひ廻すに、〈○中略〉若し此門の隻今倒れなむずるか、然らばぞ被打圧て忽皆可死きと思ひ得て、門の下に並居たる者共に向て、其れ見よ其の門倒れぬるに、被打圧て皆死なむとす、疾出よと音お高く挙て雲ければ、居たる者共此お聞て、迷てはら〳〵と出たり、登照も遠く去て立りけるに、風も不吹、地震も不振は、塵許門喎(ゆがみ)たる事も無きに、俄に門隻傾きに傾き倒れぬ、然れば急ぎ走り出たる者共は命お存しぬ、其中に顔強くて、遅く出ける者共は、少々被打圧て死にけり、其後登照人に会て、此事お語ければ、此お聞く人、尚登照が相奇異也とぞ讃め感じける、