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古今著聞集
七術道
九条大相国〈○藤原伊通〉浅位の時、なにとなく后町の井お立よりて、底おのぞき給ける程に、丞相の相見へける、うれしくおぼして、帰りて鏡おとりて見給ければその相なし、いかなることにかとおぼつかなくて、又大内にまいりて、彼井おのぞき給ふに、さきのごとく此相見へけり、其後しづかにあんじ給に、かゞみにてちかくみるにはその相なし、井にて遠くみるには其相あり、此事大臣にならんずる事とほかるべし、ついにむなしからんと思ひ給けり、はたしてはるかに程へて成給にけり、此おとゞはゆゝしき相人にておはしましけり、宇治のおとゞもわざと相せられさせ給けるとかや、