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白石紳書

盧一官といふ唐人の子、長崎町人にて年行事也、是がいひしは、父の所へ唐人共の来りし時、天草の四郎が十二三にて、唐人の供に雇はれ来りしお、唐人の中にて相おつく〴〵と見て、名お問ひ父お問ふ、浜の町といふ所の者の子也、通事不審に思ひて尋しに、彼唐人雲、日本は心得ぬ所也、あの如くなる者、あのごとくなる賤役お執てある也、彼子は天下に望のある者也、されど運はやき程に、望は成就すまじき歟といふ、程なく有馬の戦の事おこりたる也と、