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兎園小説

家相談近年我邦も、亦家相の学行はれて、病難お救ひ、火難お免かれ、其術に心服する者少からず、衆人の帰する所、其功験なきにしも非ず、余是おある人に聞けるに、曰、嘗て松永宗因、薬研堀にて、家宅お買ひ求めて移らんとす、其日浜町会田七郎宅にて、金蘭に迦逅して、家相の談に及び、其言に服し其判断お請ふ、金蘭一見して、家に死骨有り、此に住む者必ず病死之由申す、宗因畏慎て其家に移らす、直に人に譲りけり、女隠居の其家お買ひて移りたる者、一月余にして病死せり、其後医生有り、其家お買ひて此に住みけり、程なく是も亦病死せり、金蘭又久松町河岸へ行きて、其長家の、病気長屋の由お申し、聞直すべき由申す、然処其言にも従はずして、後果して如之、〈○中略〉 乙酉〈○文政八年〉五月朔 中井乾斎誌