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竜背発秘

錦城先生、経お窮るの暇、かたはら家相の術(○○○○)に通じ、其書許多巻あり、文政辛巳の年、先生京師より帰り、病のために経お廃るの暇、悉く其書お我に伝ふ、一日余に告曰、夫東張南張は、色難持前なり、北張巽張にも、色情の禍お雲、北欠西欠にも、色情破敗あり、西張乾張には、二金の間に離火お生じて、二金の体お焼き亡すの形あり、離火は酒色なり、花麗なり、汰侈淫佚の本なり、酒色華美の奢侈お以て、金銀お費耗するは、離火の二金お焼き亡すの形なり、登り竜の降り竜と変ずるも、必定此禍にあり、唐の玄宗の事お見ても知るべし、されば家相にて極上吉祥の瑞相と言ものも、色情花美お厳制せざれば、其効験のなきのみには非ずして、瑞相の内より凶相お発して、必ず禍殃お蒙らざるはなし、所謂諸吉相と言もの、色情花美お帯びざるはなく、又色情花美に破られざるはなし、先哲の巽張の条に、色情の気立つと言たるは、一隅お挙て三隅お反するの法なり、家相お改正せんと欲するものは、先づ心相お改正して、色情花美汰侈淫佚お厳制するお始とす、家相の学は、君子修身の要術なり、東張南張木生火の吉相お知るべし、是は最上の吉相なり、されども色情汰侈淫佚お慎まざれば、国家お敗亡するまでもなく、我性命お失なふべし、木は火お生じて其勢盛なれども、幾程もなく薪尽て火滅す、木火共に灰になるのみ、腎虚火動して性命お空しくする、是れ此象なり、先哲三五続の条に、大凶眼前にありと雲たるは、一旦の発達升進栄華隆昌の福より、身家の敗亡お生ずるお雲、されば家相の吉祥お得んとには、恭倹謙譲降挹退托の人にして、周易の慎めば無害也の一語お拳々服膺せざれば、其吉祥お承当する事不能ものなり、故に東南巽乾の張も、家作地面十分の一も、張れるお吉相とす、大に張り満たるは、災殃お招くの相なり、吉相方に張れるは、少しく張れ、欠くは少しく欠けと言二語は、家相極伝の秘密蔵なり、余聴お傾て賛嘆す、今なお其言耳に在り、家相お改正せんと欲る者は、よく此意お解了すべし、今滋丙戌の春、書四玉厳堂、予に師説お録せん事お請ふ、因て畳数判断一部お著す、此書也、其源流は天地の秘お洩て、義文よつて以て卦お画し、禹箕因てもつて演儔するお本とす、其理は至精、其用は至博なり、区々たる理数の書に異なるが故に、竜背発秘と号し、其請に応じ、亦先生の妙説お書て、以て此書の序となす、 文政九丙戌九月晴湖荒井繇行尭民識