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闇の曙

近年剣相とて、刀の焼刃お見て、是は吉剣、是は凶剣と名付て、俗人おまどはす姦巧妄曲の徒所々に多し、其剣相おいふは、後天の八卦お〓より順にわり付け、八卦の当る所、疵にても地あれにてもあれば、凶といひ、無疵なれば吉とす、譬ば、坎の所に疵あれば住所の障り、震の所に疵有ば宗領に祟る、兌は妻の不縁といふ也、扠此輩、もとより刀の目利しるにもあらず、右のごときもの故、しなひ疵などは夢にもしらず、隻焼出しよく、地あれもなければ、大忍有て、一向益にたゝぬ刀にても、右の吉剣の合紋さへ宜しければ、誉立て高直に売付る悪徒有、猶道具屋と相組て売付るとなん、