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伊勢物語

むかし、世心づける女、いかで心なさけあらん男に、あひみてしがなと思へど、いひ出んもたよりなきに、誠ならぬ夢がたりおす、子三人およびて、かたりけり、ふたりの子は、なさけなくいらへてやみぬ、さぶらうなりける子なん、よき御男ぞいでこんとあはするに、此女けしきいとよし、こと人はいとなさけなし、いかでこの在五中将にあはせてしがなと思ふ心有、かりしありきけるに、いきあひて、道にて馬の口お取て、かう〳〵なん思ふといひければ、哀がりて、きてねにけり、