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江談抄
三雑事
伴大納言本縁事被談雲、伴大納言者、先祖被知乎、答雲、伴氏文大略見候哉、被談雲、氏文には違事お伝聞侍也、伴大納言者、本佐渡国百姓也、彼国郡司に従てぞ侍ける、其後国にて、善男夢に見様、西大寺と東大寺とに跨て立たりと見て、妻女に語此由、妻雲、みる所の夢は、胯おさかれぬと合る、善男驚て無由事お語りぬと恐思て、主の郡司の宅に行向ふに、伴の郡司、極たる相人にてぞありけるが、年来はさなきに、俄に夢の後朝行たるに、取円座て出向て、事の外に饗応して、召昇せければ、善男成怪て、又恐様、我お賺して後、此女の雲つるやうに、無由事に付、胯さかむずるにやと、思程に、郡司談雲、女は高名の夢想見てけり、然お無由人に語ければ、必大位に至るとも、定其徴故に、不慮の外事出来て、坐す事歟と雲けり、然間善男付縁て、京上してありける程に、七年と雲に、大納言に至ける程に、彼夢合たる徴にて、配流伊豆国雲々、此事祖父所被伝語也、又其後〈爾、〉広俊、父の俊貞も、彼国の住人語ひしなりとて、語りきと雲々、