[p.0629]
今昔物語
二十
女人依心風流得感応成仙語第四十二今昔、大和国宇陀の郡に住む女人有けり、本より心風流にして、永く凶害お離れたり、七人の子生せり、家貧くして食物無し、然れば子供お養ふ便無し、而るに此女日々に沐浴し、身お浄め綴お著て、常に野に行て菜お採て業とす、又家に居たる時は家お浄むるお以お役とす、又菜おば調へ盛て、咲お含て人に此お令食む、此お以て常の事として有ける間に、其女遂に心直なる故に、神仙此れお哀びて神仙に仕ふ、遂に自然ら其の感応有て、春の野に出て菜お採て食する程に、自然ら仙草お食して、天お飛ぶ事お得たり、心風流なる者は仏法お不修行と雲へども、仙薬お食して此く仙と成けり、此れお服仙薬と雲ふなるべし、心直くして仙薬お食しつれば、女也と雲へども、仙に成て空お飛ぶ事如此し、然れば人猶心お風流にして、凶害おば可離也となむ語り伝へたるとや、