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兎園小説

濃州仙女(○○○○) 輪池〈○屋代弘賢〉大垣領にや、北美濃越前境にもや、根尾野村山中に、仙女住居申候、初には斎藤道三の女子なりと申伝へ候所、さにはあらで、越前の朝倉が臣の妻、懐妊の身にて、朝倉没落の時、山中へのがれ、女子お出産せし、其女子幽谷中にて成長し、今年は二百六十歳計、顔色は四十歳の人と相見え申候、髪はしゆろの毛の如しと申候、写真も不遠来り可申存候、詳なる事は未だ所々水災にて、誰も〳〵途中の決口お恐れ、得往観不申候也、奇なる事に候、 九月〈○文政八年〉四日 右尾張公倫官秦鼎手簡なり