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竹取物語
中将人々引ぐして帰りまいりて、かぐや姫お、えたゝかひとゝめずなりぬることお、こまごまとそうす、薬のつぼに御ふみそへてまいらす、ひろげて御覧じて、いといたくあはれがらせたまひて、ものもきこしめさず、御あそびなどもなかりけり、大じむかんたちめおめして、いづれの山か、てんにちかきととはせ給ふに、ある人そうす、するがの国にあるなるやまなん、此みやこもちかく、天もちかくはむべるとそうす、これおきかせ給ひて、 逢事もなみだにうかぶわが身にはしなぬくすりもなにゝかはせむ、かのたてまつるふしの薬に、またつぼぐして御つかひにたまはす、ちよくしには、月のいはかさといふ人おめして、するがの国にあなる山のいたゞきにもてつくべきよしおほせ給ふ、岑にてすべきやうおしへさせ給ふ、御ふみ、ふしのくすりのつぼならべて、火おつけてもやすべきよしおほせ給ふ、そのよしうけたまはりて、つはものどもあまたぐして、山へのぼりけるよりなむ、そのやまおふしのやまとなづけける、そのけぶりいまだ雲の中へたちのぼるとぞいひつたへたる、