[p.0652]
古史伝

人の過りて火に焼れたる時など、狐に水お汲て、その傷処お洗へば、速に痛お去るなどの事は、まゝ為る事なるお、生なる川菜の汁おもみ取て、 火傷処( やけど) に沃ぎかくれば、痛お去などは、予もしば〳〵見たる験なり、また此に就てなほ思ふに、種々の物に、各々某々の能ありて、病お直すおはじめ、互に相 制( か) ち相助て、功お為すことは、都て神のしかくさ〴〵に、性お賦おき給へるに依てなり、其は物ごとに其伝こそ無けれ、此なる伝、また第二十段に見えたる、伊邪那岐大神の、桃に勅たまへる御言に、女如助我雲々、青人草之雲々、将惚苦時可助と詔へるまに〳〵、桃の悪鬼お避る功ある事などお思ひ合せ、准へて悟るべし、さて川苔は、水田などに生る物にて、俗に多くはひるもと雲へり、