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時還読我書

近日西洋の外医しーぼると、巧手の名ありて、京寓中、医者病者来聚て市おなせしに、東都より帰途、関駅にて、甲必丹の失足堕損せしかば、しーぼると服薬数占術お尽せしに、効あらず、再び京に入りて、発足の期も遅延し、京医の蘭お唱ふるもの、日々環視するのみにして、倶に技窮せしところ、青貝屋武右衛門といへる骨董ありて、 難波骨つぎ( ○○○○○) 山口満二なるものお伴ひ来りて、診察せしめしに、渠一診して、これしきの軽患に、いかなれば数日治功なき事ぞ、某が術お行ひたらんには、三日にして全癒なさしめんと、大言お吐たりしかば、さらばとて、蘭人も治お乞しに、果して其言の如く、三日中にして、脱然と治癒せしめ、亟に崎奥に還ることお得せしめたり、〈○中略〉満二の技、外国人の眼お驚せし、実に愉快といふべし、此丙戌〈○文政九年〉の春のことにてありき、