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明良洪範続篇
十三
松平伊豆守、眼お煩はれし時、本覚と雲る目医の薬お用ひられ、段々快気にて最早登城おも致さるべき時に、本覚に申さるヽは、我等眼病大方愈たり、去ながら、此寒気、外へ出候へば、其儘涙出、又少しの風にも、涙お催し候と有ければ、本覚申は、夫は上の目のよく成候故、上目は常に涙ぐみ、寒暑にも、必涙洩れ候なり、血気つよき故に、斯の如くに候と、追従心に申けれども、万事は一理也と、豆州申され、扠医の道は知らず候得ども、考ふるに、上の目と雲は涙も出ず、又乾もせぬが上の眼たるべし、涙の出るは、乾くよりは増なるべし、去ながら目の事は、格別なりやと申されしかば、本覚赤面し、扠々御猶と申しける、