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沙石集

歯取事
南都に、 歯取唐人( ○○○○) 有き、或在家の人の、慳貪にして、利潤おさきとし、事にふれて、あきなひ心のみありて、得もありたるが、虫のくひたるはおとらせんとて、唐人がもとへゆきぬ、歯一つとるには銭二文にさだめたるお、一文にてとりてたべといふ、少分の事なればたヾもとるべけれども、心ざれば、さらば三文にて歯二つとり給へとて、虫もくはぬよによきはお、とりそへて、二つとらせて、三文とらせつ、心には利分とこそ思けれども、きずなきはおうしなひぬる、大なる損なり、是は申におよばず、大におろかなる事、おこがましきわざなり、