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明良洪範

家光公は、江戸の事、別して委敷知し召るれ共、何事も上よりは仰出されず、善悪共老臣より言上すれば、其事は斯こそ聞居たれと、老臣よりも委敷知し召れける、或時、山本源右衛門と雲江戸一番の溢れ者有て、御仕置の義お申上しに、其者は能き男にて、尚歯一枚欠て、銀歯せしと仰せ有しに、男振は仰せの如く能き男に候、向歯の所は、如何存じ申さずと申上るに、其者の事は、八年以前より存じ居たれど、若気の事故、直るべきやと思居たりと仰せられて、切腹仰付られたり、後に見るに、仰せの如く、 銀の入歯( ○○○○) 有しとなり、