醇生庵産育全書外篇

一

総論〈○中略〉
大凡、艱産、器械お仮て分娩せしむるの術、古今外国其説一にして足らず、印度にては、大実積経、仏説入胎蔵会篇雲、〈唐三蔵法師義浄訳〉若彼胎子、於前身中、造諸悪業、并随人胎、由此因縁、将欲出時、手足横乱、不能転側、便於母腹、以取命終、時有智慧女人或善医者、以煥酥油、或楡皮汁、及余滑物、塗其手上、即以中指夾薄刀子、利若鋒芒、内如糞厠黒闇臭穢可悪坑中、以科刀子臠割児身、片々抽出、又阿毘達磨倶舎論世品雲、〈唐言奘訳〉其母或時、威儀飲食、執作過分、或由其子宿業、死于胎内、時有女人或諸医者、妙通産法、以酥油〓末黎汁、〈一切経音義雲、〓式染切、〓末黎滑草也、用之洗戸、甚滑沢也、〉塗其手、執小利刀、内孔中、分解肢節牽出於外、唐山に在ては、金の張従正、儒門事親、収産傷胎門雲、一婦人臨産、召村嫗数人侍焉、先産一臂出、嫗不測軽重、曳之、臂為之断、子死于腹、其母面青身冷、汗漐々不絶、時微喘嗚呼病家甘于死、忽有人曰、張戴人有奇見試問之、戴人曰、命在須臾鍼薬無及、急取秤鉤、続以壮縄、以膏塗其鉤、令其母分両足向外偃坐、左右名一人、脚上立足、次以鉤其死貽、命一壮力婦、倒身、曳出死貽、清の呉道源女科切要艱産門雲、房中穏婆三箇、議論紛々、或欲早用鉤割以全母命、又雲、因生産不順、毎孕則鉤割、〈○中略〉由是観之ば、理産の術、古今万国悉く鉤割に甘心し、一も母子双全の治お謀らざるは何ぞや、皇天幸に福お降して、我悃お憐み、恍乎として授与するに、是斯妙術お以てし玉ふ、此実に万国の未発る所、千古の未伝る所なり、糞くは有志の士、此書お玩索し、及び門に造りて業お紹承け、よく精錬し、よく請求し、以て世間難娩の婦お救ひ、子母双全お得せしめば、予に於て大幸焉より盛んなるはなし、聞、近来轂下の一二の子弟、受業未だ熟せざるに、私に門戸お立るあり、其技若窮するときは、却て鉄鉤お用ふと、実に如此ならば、所謂鉤割の流と、復何ぞ択ばん、学者醜婦の頻に効ふこと勿れ、余が 探頷術( ○○○) の至要たる、必先其支碍する処お索て之お脱し、胎児出路の順お得せしむ、これ余が生平に注意する所にして、学者一に此に熟到せざるときは、仮令鍛錬すといへども、竟に其妙処に詣り難し、