市中取締類集

九の四十五

堕胎御禁止一件( 天保十三寅年六月)
越前守殿堕胎致し候者、御仕置之儀に付、申上候書付、烏居甲斐守町奉行市中に而、女医師と唱、妊身之者お、頼に応じ堕胎致し候もの、并頼候もの、御仕置当、御尋に御座候処、元来人道に有之間敷所業に候得共、右之内には、難産等に而、其児お殺、其母お助候と申儀は、産科之所主に而、無余儀次第に付、強而論ずべき儀には無御座候得共、多くは、父母抔お忍び密通致し、不計懐妊致し候儀、顕候お厭ひ候より、仕成候儀に而、右等は、其身之不慎より懐妊致し候処、密通之儀可押隠為めに、其子お殺候儀に而、或は差而謂無之に、其身之勝手に泥み、夫婦相談之上、猥に堕胎為致候ものも可有之哉に而、右様之類、実に不仁之至に御座候間、以後何と歟御仕置無之候而は不協儀に付、先例相糺候得共、差当右に可引当例相見不申、文政八酉年、評定所一座〈江〉評議に被成、御下げ候火附盗賊改長井五右衛門相伺候、武州多摩郡小山村百姓重右衛門儀、女房てる妊身之良相咄し候処、一体養母之心底に不応、此のもの存寄にも不相協候間、離縁可致と存居候間、出生有之候而は、離縁之邪魔に相成候迚、先妻之子供も有之、出産致候而は、厄介多に而家業も相成兼候旨申欺、売薬商致し候ものより、薬買取相用、堕胎為致候処、養母りた承、親子相談之上、及右始末候様噂致し、迷惑之由、彼是六け敷申聞、難居遂旨、てる申聞候砌、兼而離縁におよび度存候迚、何之挨拶も不致、同人家出致し候お、幸に存、離縁致し、其上持参候品売払代金者、てる尋候入用に遺捨、其余は、所持致し候始末、不埒に付、百日手鎖と相伺、評議之趣に而は、衣類等引留売払候段、如何に御座候、堕胎為致候方、人道に有之間敷故お以、江戸拾里四方追放と申上、其通相済候例有之、無余儀筋も無之、猥に堕胎相頼候ものは、右例に見合、且頼お受、堕胎為致候女医師之儀、可引当先例無之候得共則毒薬売候趣意に而、御定書に、毒害致し人お殺候者、獄門并毒薬売候者、引廻し之上獄門と有之、猶引廻し之儀者、諸人〈江〉被示候御趣意迄に而、強而段取に拘候筋には有御座間敷、右は重き御仕置には候得共、御定両様共、同刑に相当り候得ば、外に寄処も無之候間、右御定被引当、前書先例に基、堕胎相頼候者、并価お取、頼お受堕胎為致候者も、江戸拾里四方追放に而相当可仕哉、猶格別不仁之取計致し候歟、又は無余儀次第有之、堕胎致し候類も有之間敷とも難申、右等は其節吟味之始末に寄、軽重之差別も可有候間、差極難申上儀に御座候共、一と通、猥に堕胎為致候者は、凡前書之通に而相当可仕見込に而、取調申上候儀に御座候、併新規之儀に付、治定之儀は評定所一座〈江〉も一応評議に御下げ御座候方と奉存候、以上、
寅〈○天保十三年〉八月 遠山左衛門尉
烏居甲斐守
寅十一月廿四日越前守殿御直〈伊賀守左衛門尉江播磨守〉御渡評定所一座〈江〉男女密通、并夫婦相談之上、猥に堕胎為致候もの御仕置之儀、
一其身之勝手等お謀、猥に怠惰為致候もの、男女共江戸拾里四方追放、
一右お存ながら、取計候医師之類、江戸払、
右之通被相心得、猶其節之始末次第、軽重之儀は、事実相当之処、厚勘弁致し、御仕置申付候様可被致候、
十一月