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奇魂

灸法( やきひわざ)
灸は、今字音にのみ雲て、古名詳ならず、故、まづ考るに、延喜式、和名抄抔に、熟艾おやいはくさ、又やいくさ抔訓、我陸奥の方言に、灸するお、やいひおやくと雲、又其跡おやいとと雲は、吾妻の大方の言也、是は焼鎌おやいかまと雲如く、古やきひと雲けむお、後には、音便にくづれて、やいひと雲、是に用る草お、やいはくさ、やいくさ抔いひつらんと見ゆ、されば今やきひと雲ぞ正しかる、文覚法に、さる名あるからは、太古よりの術と見えて、軍防令にも、凡兵士毎火雲々、紺布幕一口、著裏、銅、〓小釜、随得三口雲々、火鑽一具、 熟艾一斤( ○○○○) とある、熟艾は火鑽と並いへれば、其料かともおもはるれど、猶灸の料なるべし、〈○中略〉
近き宝暦の比なれど、三宅意安と雲し人の、古より験あり、かつ正く伝来たる方等お撰たる、灸焫塩土伝と雲あり、又名家灸選と雲に、二神より伝し由の方お、是彼録せるもあり、又中古の書、或は世間に伝はるが、漢にいたく異なりて、決く古方とおぼゆる多し、