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燕石雑志

字体〈俗字解附○中略〉
榊巷談苑に、灸一灼お一壮といふは、壮年の人にあてゝ、幾灼と定めたれば、壮とはいへり、としよりたるもの、いとけなきものは、ほど〳〵につけて其数お減ずるなり、沈存中が筆談に見えたりといへり、愚按ずるに、この説非ならん、壮は焋と同音なり、正字通に、焋、旧註音壮、火貌熏蒸也、今炊粉粢謂之焋糕、一説、陸田曰、医用艾灸一灼、謂之壮、俗因作焋、焋糕説非と見え、亦方書に、往々、灸幾焋に作るお見て、その義、壮年の壮お象るにあらざるおしるべし、壮焋ともに熏蒸の義ならん歟、もし壮年の灸治に幾壮と唱ふるものならば、老人には幾艾といふべし、艾は老他、老人に幾艾といはざるおもて、灸一壮の壮は、壮年に当ていふにあらざる事お察すべきにや、亦按に、素問に、壮火少火の弁あり、しかれども灸灼の義にはあらず、