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麻疹流行記
文久二年壬戌七月町触写
麻疹当人飲食の毒、又は手当方不宜、死亡之者不少趣相聞候付、兼而覚悟いたし置可然儀お、別紙之趣心得之為、右之通相渡候間、心得置候様可致事、
右之通、御奉行所より被仰渡候間、夫々支配内不洩様可被相触事、
七月十四日
総町代

町中町代
一かるきはしかたりとも、必風にあたらぬやうに、能中に平臥して、温保第一の手当とす、しかしあまり熱蒸は甚よろしからず、殊に此節は画は熱し、夜は凉しければ、昼は大ていあたヽまり、夜中朝迄は衣服夜具等増すべし、其内悪寒つよければ、昼も寒気たゆる程は、暫時衣被軽むるも甚あしく、直に内攻すると心得べし、桂枝麻黄の入薬も、甚よろしからず、川芎白芷も斟酌すべし、 衄( はなぢ) の出るは都而よろしければ、先暫くあはて止むる事なかれ、されども血のかたまらず、溶解の様に見ゆれば、総身の血の熱毒にて変じ、恐るべき重病なれば、其療養格別の事なり、
一飲食は、熱き物、冷き物ども、総じて悪しく、程克加減し、冷水は決而のむべからず、
一麦湯、葛湯は、至而よし、食してあしきもの
一魚類鳥類は、かるき物たりとも、病発大ていかせる迄は、一切禁ずべし、酒、餅類、飴類、豆腐、油気の物、酢の物、とうがらしの類、辛き物、里芋、かぼちや、なた豆、茄子〈はしかかせて後〉皮さり煮てよし、ぬか漬はよろしからず、瓜の類、ぜんまい、わらび、ねぶか、わけぎの類、ぎやうじやびる、めんるい、〈あわぞうめん病中に而〉〈もよし〉竹の子、木の子類、そら豆、円豆、こんにやく、ぎんなん、柿、〈はちやがきはよし〉桃、糟漬の物、右之類、病後にても、当分之内禁ず、
食してよろしきもの
一とう瓜、青瓜、白瓜、右は煮て食すればよし、長芋、じねんじよ、ゆり根、ごぼう、かぶら、蓮根、ふき、小豆、うど、ちしや、〈西瓜多分はよろしからず〉麩の類、こんぶ、ゆば、かんぴやう、かちぐり、くづ、ぶどう、九年母、みかん、きんかんよし、
かせてより後食してよろしき魚
はぜ、こち、ます、かます、あはび、かれい、あいなめ、赤もどこ、しヾみ、かながしら、石もち、
右之類、少々づヽ食してよろし、
右之外、海魚総而青色黒色の魚類、大に害あり、川魚の類、一切禁ずべし、
一酢の類、よろしからず、塩物、干物の類よろしからず、
一麻疹疫癘流行に付、於国府宮、来る廿日より廿四日迄五日之間、疫神祭御祈禱被仰付候間、可有其心得事、
七月
右之通、夫々支配内不洩様、可被相触事、
七月十四日
総町代
町中町代〈中〉