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奇魂

病源論〈并病名考〉
神ながら 興言( ことあげ) せぬは古の習なれば、ましてかヽるわざは、何ともいはでやみなましと思へど、古書伝らざれば、拠なきまヽに、漢籍おみれば、徒に穿鑿たる説のみ多くして、いと信がたくなん、さらばたヾに過んとすれば、習癖つきたるにか、其病源お論〈は〉ねば、さすがにあかぬ心ちぞせらるヽ、故考るに、 病源となる物三( ○○○○○○○) あり、一には 神気( ○○) 也、神気と雲は、大己貴命の御心より疫起り、本牟智和気御子言問まさず、崇道天皇の霊より咳逆起り、倭建命、伊服山にて白猪に逢て御足腫たまひ、桓武天皇の、石上神の祟にて病たまひ、神武天皇の御軍、熊野にて神毒気にて皆瘁し類、国神の荒にて、其国人病む等、いとも畏は、仲哀天皇の、天照大神の勅お信まさずして崩給し類也、〈○中略〉二には 自然成( ○○○) 也、自然成とは、自事お犯にもあらず、物に傷るヽにも非、端なく悪事起り、其悪事の終には因と成て、其身にしては病となり、或は不祥子お生、或は子孫の血脈に伝て、種々の病となる類お雲也、其ゆくりなく禍事の起れるは、准へむも畏こかれど、伊奘冉命の、火神お生ましヽに依て崩ましヽ類也、其悪事の因と成て不祥子の生るヽは、二神天之御柱お廻ます時、女言先立て、不良しによりて、御子蛭子淡島お生まし、伊奘諾命、黄泉の穢お祓はんとて、禊ます時、御衣の穢よりは煩大人命、御身の穢よりは禍津日神、生ましヽ類也、まして人代と成て、過又は穢なきこと能ざれば、其身其毒に悩めるのみならず、子孫に伝るも常の事にて、病あれば、子も其に同き病ある事、誰も見て知べき也、世にいはゆる、胎毒と雲物是也、其体にあれば、 驚風( やはくさ) 、 疳( かい) 、 疱瘡( もがさ) 、 麻疹( はしか) 、 蛔虫( むし) 、 疝( あたはら) 、 積聚( むねむし) 、 留飲( むねみづ) 、 盲( めしひ) 、 聾( みヽ) 、 瘡毒( しひかさ) 、 痔( しりのやまひ) 、 癇( かぜ) 、 労瘵( つかり) 、 乱心( たぷれ) 、 癲癇( くつき) 、 中風( かたかぜ) 、 癘( あしきやまひ) など、形こそ異なれ、皆其毒の年へつヽ、長り老となるに随て、種々に化也、猶其変ゆくさま多かれど、此に挙に暇あらず、中にも著きは、労瘵、中風、癘等ある家には、血脈に弥て、代々同産に絶ざる類也、三には、 自身為( ○○○) 也、自身為と雲は、行あしくて、自病お造醸お雲也、