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医事或問

一或問曰、先生は用る薬の故もなきに、半年も一年も、薬方おかへざる事いかん、答曰、是病お治する事の、手に入たる人にあらざれば、為事かたし、病に名おつけて、病因お論ずるは、もと億見ゆえに、十日も、其薬方の効なき時は、心に疑ひおこりて、方おかゆるなり、扁鵲のごとき疾医は、病毒お見定、此毒は、此薬にて治するといふ事に決定するゆえ、たとひ薬の効なきとても、病の治する迄は、薬方おかへざるなり、其内に、自然と病毒の動時あり、動ときは、大に眠眩して、病治するものなり、病治したるあとにて見れば、其薬方かはりては、治せぬ事知るヽなり、又其病に中るあたらざるおしらず、唯方おかへぬ事お自慢して、人お惑すものあり、是は無法者のする事なり、必惑べからず、是お糺さんと思はヾ、其病人の治しやうお問べし、