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塵塚談

断食して服薬の事、釈迦如来の病お療る方也、七け日断食にて薬お飲み、七け日後は生死によらず薬お用ひずと、仏経に説給ふとかや、今世も律僧の正しき人は、長病なれば、七け日服薬し、八日目一日休薬して又服薬す、七日々々に一日づヽ休み薬用するよしお聞り、此断食して服薬の方、薬治より万病に最上の薬也、痢病、食傷、虫症、洩瀉、腹痛、積聚、嘔吐の類の病には、別して験し多し、既に大七気湯などは、絶食にして用ゆべしと古人も雲り、予しば〳〵効験お得たる事なり、疑ふべからず、然るお俗人は喰さへすれば、全快なるものと心得て、不食の病人に強てすヽむ、わけて婦人は無理無体に飯せしむ、これお介抱と思ふ、甚しきひが事ぞかし、又世俗は水お望む病人に、水おあたへざるが多し、これも食おすヽむるにひとし、食おすヽめ却てこれが為に命お失ふもの少なからじ、卑賤の者には水ばかり飲みて、医薬におよばず全快するもの多くあり、医法の祖たる張仲景曰く、水お望む病にはあたふべしと、又却温経に曰く、水おのぞむ病に水お飲すべしと説玉ふ、また新汲水は天然の白虎湯なり、薬にあつべしと本草に見へたり、是等の語お見て忌むべからざる事おさとし、少しもいとはず飲すべし、釈尊仲景の教ある事お知らず、歎しき事也、是にかぎらず俗人の私智のならはしには実要おうしなひ、忌べき事お返て養生になると思ふの間違のみありて、害となる事多し、歎くに余れり、