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医範提綱
題言
一榛斎先生郷に遠西名医著す所の人身内景の書数部お訳定し、集め成して全部三十巻とし、 遠西医範( ○○○○)と名く、其中より全身諸物の名、及び官能の綱領お述べ、別に一巻として、篇首に冠し、医範提綱と名く、凡そ門に入り業お受くる者には、先始に提綱お授て、内景の梗概お示し、又其問お起し、益お請お待て、余義お演べ、要旨お発し、純々として誨て巻ず、漸く人身の機関に通じて、一切の方技術も、皆此より出ると雲の大略お喩らしむ既に大義に通ずれば、次第に誘導して、本篇医範の精説お講じ、竟に天造の実際お窺ひ、精微の壺奥に遡りて、治療の機柄お握らしむ、俊〈○宇田川榛斎門人諏訪俊〉幸に教お門下に受け、親く其節お聞き、これお刀圭に試む、今にして和蘭の医法に於ては、少しも疑ひなきことお得たり、蓋し其法皆実験の事蹟に本ひて、毫も矯誣の鑿説なし、故に其精詳なること、造花の秘頣お探り、万物の究理に渉ると雖も、実測一軌にして、虚徹お設けざれば、条理井然として、望洋の惑ひなく、簡易捷径に説き示すお以て、見るに随て解し、聞くに随て暁り、群類に触て意匠長じ、奮圏お脱して活眼お開く、是お以て、駑才俊が如きも、思お費さず、力お労せずして、結構の径庭お窺ひ、年月の久きお積ずして、頗る此道の概略に通ずることお得たり、〈○下略〉