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奇魂

医薬名義〈并医風変化附本道弁〉
記紀なる神功皇后の御歌に、〈○中略〉 少名御神( ○○○○) は、即医薬の祖神にませば、言痛く論ふまでもなく、薬神と詔給意にて、取もあへず医薬と雲言の明徴也、是お記伝には、酒の首長と雲意也と雲、釈紀には、奇神也、私記曰、奇異之義也雲々、私記曰、少彦名神是造酒神也、今有其遺跡、雲といはれたれど、若然らば、式の酒司抔に此御神お祭玉ふべきに、他神お祭られたる物おや、総て何にまれ、其群党あるうへならでは、首と雲がたかるべし、又神等は皆奇なるに、此御神のみ奇と雲べからず、酒は素より造玉ひためれど、其も薬中の一物にこそあれ、打任せて酒造神と為奉るべき事かは、上件の説等の如にては、久志の神お殊更に歌出し玉ひしは徒事となりぬべし、是は専ら皇太子の御成長お祈給頃なれば、御歌の意は、此酒は我酒に非ず、薬神の物し玉へる薬酒なれば、聞食て御恙なく、常磐に幸坐と斎ひて賀玉ふ也、されば尋常の酒もあれど、薬神の領玉ひて、薬とも成べき御酒ならでは、えあらぬわざ也、