[p.1067][p.1068]
松園漫筆

薩摩人参( ○○○○) は、形状鬚の如し、 竹節人参( ○○○○) の松根なるよし、気味うすし、吉野人参、竹節人参の二品、吉野、葛城、那智、貴船等の山々におほくありて、近代多用ゆ、味甚苦して、胃気お養ふにはよろしからず、用るに堪たりとて、専ら用る諸医あれども、我〈○松園茂栄〉も数年もちひ試るに、元気お補ふの功すくなし、積痞お推ひらくには功多し、其外人参といふもの、四五品あれども、皆人参にあらざるものなれば、沙汰におよばず、然れば大切の病人、元気お補ふの功、惟朝鮮人参の外他なし、卑賤貧窮のものは、価の貴に力及ばず、見ながら死にいたるお待のみ、こゝに仁君、万民撫育の御憐み深く、窮民の力たらずして治すべき病の死にいたるお察し玉ひ、朝鮮国より人参の種及び苗お御取よせ、御手づから御園に御試あつて、其後は命お以て専らこれお作らせられ、次第に蕃茂し、今世上に 御種人参( ○○○○) とて自由に用るもの此なり、其気味、朝鮮大人参よりは薄といへども、元来朝鮮の種なれば、他の人参に大に勝れり、老夫、数年これお用て、その効験の著しきも見る、今卑賤貧窮のものまでも、その価の下料なるおもつて、心やすく疾お救ひ、忠臣は主君の命お助け、孝子は親の寿お益、誠に仁君の恩沢、万民に潤ひ流、窮民お御憐みの御慈悲おおろそかに思ふべからざる事なり、