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医事或問

本邦、 吉野人参( ○○○○) は、痞鞭に用ひて効あり、故に、余〈○吉益為則〉は、和参お用ひて、朝鮮参お用ひざるなり、昔は、和漢ともに人参味ひ苦しといふ、本草綱目にも、雷公桐君味ひ苦しといへり、日本にても、天暦帝の朝、源順の和名抄に、人参の和名、くまのいとあり、熊胆の味ひ苦きゆへに、くまのいと名付たるなり、然るに今の朝鮮人参は、味ひ甘く製したるなり、製せずして甘しといふは偽なり、用ゆべからず、本邦の人参、慎で必製すべからず、本味おそこなふ時は薬効なし、且又積気気虚まどとはいひがたし、いかんとなれば、気は形なきものなり、何にても其物あれば皆気あり、人生て居る時は気あり、死すれば其気絶ゆ、是天地自然にして形なく、造化の司る所ゆへ、人の積べきものにあらず、