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塵塚談

気付( ○○) といふ 薬( ○) の事、延享完延宝暦の比迄は、卒倒或は垂死の時は、延齢丹お用ゆ、宝暦の末より熊胆お専用とし、延齢丹も用ゆ、完政以来目薬の沃雪お用ゆ、熊胆おも用る事となれり、人身に古今の差別なければ、療病に今昔のひとしからざるべきはずはなし、医道も時勢により定らざるは、疑ふべき事なり、又、紫円、備急円、澹痰丸、石膏、附子の類は、完延宝暦の比迄は、恐れてむざと用ひざりし薬也、庸医には法銘おも知らざりしもありしに、近比は、右の攻擊の薬お、庸医までも、陳皮甘草などお遣ふごとく用ふる事となれり、