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本朝医談
老談一言記、加藤清正の医師いひし事あり、高麗陣の時に、水土にも習はず、 正気散( ○○○) の方剤しかるべしとて、其料お用意して渡りしが、按の如く、皆々煩ふ事ありしかば、不換金正気散お服せしむるに、其験なし、かの医試に与ふべき薬ありとて、一人に先づ薬お与ふるに、立処に験あり、滋に於て其佗の者どもに与ふるに、こと〴〵く功あり、其方お問に 香蘇散( ○○○) なり、其故お問に、陣中にて気鬱お兼たる故なりといふ、それより他の大将の家中も、皆香蘇散にて病いやせる事お得たりと見ゆ、太平の世といへども、時お踰る旅行はある事なれば、此心得あるべきなり、本薬お外感に用ふる事、知ざる医なし、食傷にもよきなれば、〈○中略〉諸病に加減して用ふるなり、