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都の手ぶり
両国橋
かたつかたに人あまたつどひたてる所あり、何ぞとよりてのぞけば、くろき筥ふたつならべ、これにおほきなる太刀ふたつおかけ置きつ、わかき男の裾ひきあげて襷ゆひたるが、たかあしだはきてついがさねのやうなる物、ふたつかさねたる上にのりて、この太刀おひきぬき、さま〴〵うちふりて、とみに鞘におさめなどす、ずさと見えたる男、これもたすきひきゆひて、これはいますこしみじかき刀おぬきて、ぬしとうちあふまねおす、さてかの人のいへるは、かヽる太刀うちのわざは、たゞもろ人のめおよろこばしめんわざなり、まことあが家のいとなみは、薬ひさぐわざにこそあれとて、さヽやかなる紙つヽみふたつとうでヽ、此ひとつは 足とらず( ○○○○) といひて、家に伝へたるらうやくなり、あだはら、あくたのやまひ、あるは尻より口よりこくやまひ、舟やまひ、酒やまひ、いづれにもちひても、とみにしるしあり、又こなたなるは、 歯おみがく薬( ○○○○○○) なり、このくすり、むしかめばおいやし、口のうちのくさきかお除く、はおしろくせんことは、ことにすみやかなりなどいひつヽ、ぜにひとつお、かの薬もてみがくに、十日の月の雲間おいづるがごと、てりかヾやきて見ゆ、みな人おのがじヽもとめつヽいぬ、