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日本歳時記
四六月
刻み置たる薬種おも紙に包みながら、其口おひらき、日にあてヽ晒すべし、さざまざる薬は、其まヽ日に干すべし、千金方にいはく、薬おさい〳〵日に干すことなかれ、薬力うすくなる故なり、当時用ひざる薬は、烈日にほし、新瓦器に入、土にて口お封じ、用る時開き出して、急に又封ずべし、年おふれども新しきがごとし、丸散の薬も、如此すべしとぞ、凡世の人、茶お壺に貯へよく保護すれども、薬おたもつ事おしらず、薬は猶人お養ひ病おいやす物なれば、貴重して収めたくはへ、気味のぬけざるやうにして、性おたもつべし、口せばく、手の入ほどなる新瓶お多く作らせ、薬お入、わらおつかねて、口およく封じ置くべし、如此すれば、久しく有ても、気味うせず、是薬おたもつの良法なり、地黄、白芷、当帰、羌活、川芎、神曲、黄茋、甘草などは、時々晒ざれば、虫くふ物なり、其余は志ば〳〵さらす事なかれ、気味うすくなるゆへなり、