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年々随筆

やまひお歓楽といふは、死喪お吉事といふごとく、凶おさけていへる也、五六百年こなたの記録どもに、常にみゆ、去年の秋、萩の花さかりに咲みちて、池水にうつろふがおかしきに、月さへおかしき比なりければ、稲山行教、清水良治などにせうそこしてまどいしたり、酒いたうすゝみて、むらいもさりあへず、歌よむもあり、すゞろなる朗詠などしてもて興ずるほどに、亥の時もはやう過にけり、良治はかへりぬ、行教も正明も酔ふしぬ、又の日はかしらいたくおきあがるべうもあらずくるしければ、昨宵歓楽生歓楽とかきて、良治がりやりつれば、昔日聖賢昧聖賢とかきそへて、やがておこせつ、聖賢とは酒の事也とぞ、