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備前老人物語
一蒲生氏郷の病にふし給ひしに、利休 とぶらひ( ○○○○) たりけり、此人茶の湯の師なりしかば、ねどこへむかひ入れて対面あり、利休病のありさまおみて、御煩御養生半と見え候、第一には御年もわかく、文武の二道の御大将にて、日本において、一人二人の御大名なれば、かれにつけこれにつけ、大切なる事どもに候、慮外ながら御保養おろかなるやふにぞんず、御油断あるまじきに候といひしかば、氏郷、
かぎりあればふかねど花はちる物お心みじかき春の山風、とあり、利休涙おながし、殊勝千万の御事かなといひて、しばしは物おもいはずして、さやうには候へどもといひながら、涙おおさへて、
ふるとみばつもらぬさきにはらへかし雪にはおれぬ青柳の枝、といひて、後物語一つ二つしてたち帰りけり、