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瘍科秘録

鵝口瘡
鵝口瘡は、俗に しらした( ○○○○) と雲ふ、小児初生の病なり、初発は舌上及び 上腭( うはあご) に班々と白点お発し、 乳渣( ちヽかす) にても付たるやうに見ゆるものなり、二三日の内に、口舌及唇までも一円に白く、米粉お敷たるやうになるものなり、舌腫痛して、不自由になると見へて、乳お吸かね、或は一向飲まぬもあり、久しく愈ざるときは、諦叫して止まず、遂に驚癇お発することもあれば、 忽略( ゆるかせ) にせずして、早く愈すお専務とす、大人の鵝口瘡は、微く因お異にす、癰疽、温疫、痢病久しく愈ず、及産後等にて虚脱したる者に有り、口舌腫痛して白点お生じ、真白になりて、米粉お敷が如し、飯食も一向にならぬ様になり、至極の虚候にて治し難し、白砂胎と雲ふも、此証お指すなるべし、但鵝口瘡のみ悪候となすに非ず、一体本病が大病ゆへ、治し兼るなり、